リスクと詐欺対策

デューデリジェンスで問題が出たら|減額・条件変更・破談の分岐

デューデリジェンスで問題が見つかると、その1件は減額・実行前の解消・表明保証と補償・対象からの除外・破談のいずれかに落ちます。処理の型ごとに売り手の負担がどう変わるか、減額の根拠を確かめる問い、降りる判断の基準を整理します。

公開 更新 カテゴリ リスクと詐欺対策 読了目安 約7分

編集 M&A攻略ガイド編集部

デューデリジェンスで問題が出たら|減額・条件変更・破談の分岐について、契約・財務・業務資料を確認する経営者と担当者
契約書と財務資料の注意点を精査するM&Aリスク対策の編集イラスト

この記事の前提

想定読者
デューデリジェンスを受けている、または受ける直前で、指摘が出た後の展開を知っておきたい売り手側の経営者
読了後の状態
DDの指摘が価格や契約条件にどう変換されるかを理解し、提示された対応案を自分で評価できる状態

デューデリジェンス(買収監査。以下DD)の現地調査が終わってしばらくすると、買い手から発見事項の一覧が届きます。項目は細かく分かれ、そのいくつかには金額が書き添えられています。そして最終契約の前に、もう一度価格の話が始まります。

ここで多くの売り手が動揺します。基本合意で金額は決まったはずだ、という感覚があるからです。実際には、基本合意書の価格条項に法的拘束力を持たせないのが一般的で、拘束力を持つのは独占交渉権や秘密保持といった手続き面に限られます。DD後に条件が動くことは、そもそも設計に組み込まれています。

とはいえ、あらゆる指摘が減額につながるわけでもありません。1件の指摘は、いくつかある処理の型のどれかに割り当てられ、そこで売り手の負担の重さが変わります。どの型に落とすかは交渉できます。交渉できることを知らないまま、最初に提示された案をそのまま受けるかどうかが、手取りの差になります。

指摘は「見つかった事実」から「条件」へ翻訳される

DDの報告書には、事実の記載と、買い手側の評価が並んでいます。この評価が条件に変換される過程は3段階です。

第一に、事実の確定。未払残業がある、株主の所在が確認できない、賃借契約に支配権変更の条項がある、といった検出そのものです。

第二に、影響額の見積り。買い手はこれを金額に置き換えます。未払残業なら遡る期間と対象人数と単価、契約条項なら再交渉が不調に終わったときの損失。ここには必ず前提の置き方があり、前提を変えれば金額も変わります。

第三に、処理方法の選択。見積もった影響を、価格から引くのか、実行前に解消させるのか、譲渡後の補償に回すのか。ここが交渉の主戦場です。

売り手が最初に確認すべきなのは、第一段階が事実として正しいかどうかではなく、第二段階の前提です。事実は動きませんが、前提は議論できます。

1件の指摘には5つの落としどころがある

処理の型ごとに、売り手にとって何が確定して何が残るのかを並べると、次のようになります。

処理の型 内容 売り手にとっての性質 使われやすい場面
価格から引く 見積もった影響額を譲渡価格から控除する 手取りは減るが、その場で確定する。譲渡後に持ち越さない 影響額が確からしく、金額の幅が小さいとき
実行前提条件にする クロージングまでに解消することを条件にする。解消しなければ実行しない 手取りは減らないが、解消の作業と費用を売り手が負う。期限に間に合わないリスクが残る 株式の集約、契約の同意取得、許認可の届出など、動かせば解決するもの
表明保証と補償に回す 「その問題はない」と保証し、後から出たら補償する 手取りは減らないが、譲渡後の一定期間、金額が確定しない 発生するかどうかが不確実で、金額も読めないもの
特別補償として切り出す 特定の論点だけを名指しし、期間や上限を個別に設定する 対象が限定される分、包括的な表明保証より読みやすい 論点が特定されていて、金額の幅だけが不明なとき
対価の一部を留保する 支払いの一部を後払い、または第三者に預ける 手取りの確定が遅れる。相手の資力に依存する 補償が現実に回収できるかを買い手が不安視しているとき

破談は6つ目の選択肢ですが、これは処理の型ではなく、上のどれでも折り合わなかった結果です。

同じ指摘でも、どの型に落とすかで負担の性質はまったく変わります。たとえば未払残業の指摘は、価格から引けばその場で終わりますが、表明保証に回せば譲渡後に請求が来るかどうかを何年か待つことになります。金額が同じでも、確定するものと確定しないものは別物です。

買い手が最初に出してくる案が売り手にとって最善とは限りません。減額と補償の両方を求められることもあります。同じ論点で二重に負担していないかは、必ず確認してください。

減額要求の根拠を確かめる3つの問い

正当な指摘と、値下げの口実は見分けられます。3つ問えば足ります。

その影響は将来のキャッシュに及ぶのか、過去で完結しているのか。 譲渡後も出続ける支出であれば、価格に反映されるのは筋が通ります。過去の一時的な損失で、今後は発生しないと説明できるものなら、収益力の評価ではなく個別の負債として扱う話になります。ここを混ぜられると、実態より大きな減額になります。

影響額の計算根拠が示されているか。 遡る期間、対象人数、発生確率、割引率。前提が示されない金額は、検証も反論もできません。根拠の提示を求めるのは、当然の要求です。示せないなら、その金額に理由はありません。

その情報は、DD前から相手が知っていたものではないか。 ノンネームシートや基本合意前の資料で開示済みの事実を、DD後にあらためて減額の理由にしてくるケースがあります。何をいつ開示したかの記録が手元にあれば、この主張は止められます。DD対応の質問と回答を書面で残しておく理由はここにもあります。

自社の数字で検算できるかどうかが分かれ目になります。譲渡価格の前提を会社の値段の計算方法で自分で組み立てておけば、減額幅がどの前提の変更から出ているのかを特定できます。

「将来に回す」ほうが不利になることがある

減額を避けたい売り手は、表明保証と補償への振り替えを選びがちです。目先の金額が動かないためです。ただしこの選択には、条件の読み方が伴います。

補償に回した論点は、最終契約の条項として書き込まれます。そこで決まるのは支払う金額ではなく、いつまで請求できるか、総額がどこまで届きうるか、いくら以上なら請求できるかという枠です。枠の読み方そのものは表明保証と補償条項で扱っていますが、DD後の交渉で押さえるべきなのは一点だけです。この枠が決まるまで、自分の手取りは確定しません。

つまり、価格から引かれる金額と、補償で負う可能性がある金額は、単純に比較できません。減額は確定した損失、補償は不確定な債務です。金額だけを見て「減額されないほうが得」と判断すると、譲渡後に手取りが目減りすることがあります。

判断の目安は、その問題が実際に表面化する確率を自分で見積もれるかどうかです。見積もれるなら補償で持つ選択に意味があります。見積もれないなら、その場で減額して終わらせるほうが、譲渡後の生活設計は立てやすくなります。手取りがいつ確定するかは、金額と並ぶ交渉条件だと考えてください。

破談を選ぶ判断と、そのコスト

DD後の交渉が折り合わないとき、降りるという選択肢は常にあります。ただし、コストはゼロではありません。

時間が失われます。独占交渉に入ってから最終契約の直前までは数か月かかり、その間ほかの買い手候補との交渉は止まっています。情報も出てしまっています。DDで開示した内容は相手の手元に残り、秘密保持契約はあってもその記憶は消えません。社内も動いています。資料集めに関わった従業員は、何かが起きていることに気づいています。

それでも降りるべき場面はあります。次のいずれかに当てはまるなら、条件を詰めるより、相手を替えるほうが早い。

  • 経営者保証の解除がクロージングの条件として契約に書かれない。「譲渡後に手続きする」という説明にとどまる
  • 影響額の根拠を何度求めても示されず、金額だけが提示される
  • DDのたびに前提が変わり、条件の下げ幅が積み上がっていく
  • 対価の大部分が後払いになり、その支払い原資が譲渡後の会社の収益とされている

とくに1つ目は、会社と資産だけが相手に渡り、金融機関に対する保証は自分に残るという形につながります。この形がどう作られるかはM&A詐欺の手口で扱っています。降りる基準を先に決めておくことが、この段階では最大の防御になります。

破談後に再挑戦する場合、同じ資料でもう一度DDを受けることになります。前回指摘された事項を解消してから出直せば、次は同じ理由で下げられません。1回目のDDを、無駄ではなく自社の点検結果として使えるかどうかで、その後が変わります。

相談先を1件、交渉が始まる前に確保しておく

DD後の交渉は、事実の話ではなく条件の設計の話です。仲介会社が間に入っている場合、成約させることに利害があるため、売り手だけの立場で条件を詰める役割は期待しにくくなります。

契約条項のレビューをどこに頼むかは、交渉が始まってからでは間に合いません。依頼先ごとに何を頼めるかは交渉と契約だけ外部に頼む方法で整理しています。M&A支援機関の登録状況やガイドラインの遵守状況は、2026年8月時点では中小企業庁が公表している枠組みで確認できます。名乗りだけで判断せず、自分で照会してください。

次にやること

DDが始まる前、あるいは指摘の一覧が届いた直後に、やることは3つです。

  1. 提示された金額について、前提(期間・人数・確率・単価)を書面で求める
  2. 同じ論点で減額と補償の両方を負っていないか、指摘一覧と契約ドラフトを突き合わせる
  3. 「これが満たされなければ降りる」という条件を、経営者保証の解除を含めて1枚に書き出す

3つ目を先に決めておくと、交渉が長引いたときに判断が鈍りません。逆にこれを決めないままDD後の交渉に入ると、ここまで来たのだからという理由だけで、当初の目的と合わない条件を受け入れることになります。準備段階で何を整えるかはDDで出す資料と直す順番を参照してください。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」(支援機関が依頼者に対して行うべき説明を整理) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

出典:中小企業庁「M&A支援機関登録制度」(登録支援機関の検索・公表情報) https://ma-shienkikan.go.jp/