M&A概観

建設・運送業の人手不足倒産|廃業ラッシュの中でM&Aを選べる会社の条件

人手が足りず、黒字のまま会社をたたむ判断が出てきています。建設・運送で何が起きているのか、買い手に評価される会社の条件、廃業を選んだ場合にかかる費用までを並べ、廃業と第三者承継を比べる材料を整理します。

公開 更新 カテゴリ M&A概観 読了目安 約5分

編集 M&A攻略ガイド編集部

建設・運送業の人手不足倒産|廃業ラッシュの中でM&Aを選べる会社の条件について、契約・財務・業務資料を確認する経営者と担当者
企業資料と評価図を使ってM&A支援会社を比較する編集イラスト

この記事の前提

想定読者
中小企業の経営者・後継者など、M&Aや事業承継を検討している方
読了後の状態
この記事のテーマについて、自社の状況に当てはめて判断できる状態

働き方改革(いわゆる2024年問題)の本格適用から、まもなく2年が経過しようとしています。当初は「なんとかなる」と考えていた中小の建設・運送会社でも、「仕事はあるのに人がいないから続けられない」という状況が出てきました。赤字だから廃業するのではなく、黒字のまま会社をたたむという判断です。

採用に資金を回せる会社と回せない会社では、人の集まり方が変わります。ただし、人を採れないことがそのまま廃業に直結するわけではありません。第三者承継(M&A)で採用力のあるグループに入り、従業員の雇用を残したうえで創業者利益を受け取るという道もあります。会社の状態が同じでも、選ぶ手段によって結末は変わります。

この記事では、人手が足りずに行き詰まる会社で何が起きているのかを整理したうえで、廃業と第三者承継(M&A)のどちらを選ぶかを判断するための材料をまとめます。

2026年、なぜ「あそこの工務店」は潰れたのか?

行き詰まりの理由は「仕事がない」だけではありません。受注は取れているのに、施工や配送を担う人が採れない、あるいは辞めてしまって現場が回らなくなる。この形は、売上不振型と違って決算書に表れるのが遅く、数字が悪くなる前に現場から先に壊れます。気づいたときには、受注を断り続けて信用を失っているという順番をたどります。

給与高騰についていけない中小企業

大手ゼネコンやハウスメーカーは、人材確保のために初任給や施工単価を大幅に引き上げました。一方で、多重下請け構造の中にいる中小企業は、単価交渉がうまくいかず、賃上げ原資を十分に確保できていません。

この差が開くと、若手や中堅社員は「より良い給与・休日」を出せる側に移ります。抜けた穴を採用で埋められなければ、受注を減らすしかなくなり、売上が落ちて賃上げの原資がさらに細るという順番で回り始めます。人が抜けたこと自体より、抜けた穴を埋められないことが行き詰まりの引き金になります。

社長の高齢化と「諦め」

70代を超えた経営者が、「新しい勤怠管理システムやインボイス、法令対応についていけない」と気力を失うケースも目立ちます。後継者である息子や娘も「今の厳しい業界環境で継ぎたくない」と拒否し、結果として黒字のまま廃業を選択せざるを得なくなっています。

買い手が見ているのは許可そのものではない

「建設業の許可を持っていれば売れる」と言われることがありますが、許可は買い手にとって前提条件であって、それだけで価格が付く材料ではありません。許可を維持するには要件を満たす人が必要で、その人が残らなければ許可も残らないためです。何が評価され、何が評価されないのかは、買い手が何を目的に買うかで決まります。

評価されやすい会社の特徴

  • 若手が定着している: 買い手が最も再現しにくいのが、採用して育てた人が辞めずに残っている状態です。人を確保する目的で買う相手にとっては、年齢構成そのものが評価材料になります。
  • 特定領域の強み: 電気、管、内装など、専門性が高い技術や商圏を持っている。同じ地域に同じ工種の会社が少ないほど、代わりが利きません。
  • 直請け比率: 下請けだけに依存せず、独自の顧客基盤を持っている。価格の決定権が自社側にあるかどうかで、引き継いだ後の利益率が変わります。

評価額そのものは相手と時期で動くため、事前に確定させることはできません。ただし何が評価されるかは決まっているので、年買法での企業価値の考え方を使えば、自分で目安を試算して根拠を持っておくことはできます。

買い手がつきにくい会社の特徴

  • 従業員が高齢者ばかり(60代以上のみで構成されている)。
  • 社会保険未加入や残業代未払いなど、コンプライアンス違反(簿外債務のリスク)がある。
  • 社長一人の「個人商店」状態で、組織として機能していない。

「買い手がつきにくい」条件に当てはまっていても、それだけで結論は出ません。近隣の同業者や、エリア拡大を狙う隣県の企業にとっては、商圏や顧客リスト、許可の維持そのものに意味があるためです。誰を候補として想定するかで評価は変わります。候補の探し方は買い手を探す経路の比較で整理しています。

廃業を選んだときに出ていくお金

「人がいないから廃業しよう」と決める前に、廃業側にかかる支出を先に並べてください。会社をたたむ側にも、まとまった現金が要ります。

  • 従業員の解雇予告手当・退職金
  • 事務所や資材置き場の原状回復費用
  • 在庫や重機の処分損(処分価格は帳簿価額を下回るのが普通です)
  • 借入金の残債の一括返済
  • 解散・清算の登記費用と、清算にかかる税務申告の費用

これらを差し引くと、手元に現金が残るどころか、個人資産を持ち出す形になることもあります。とくに借入に個人保証が付いている場合、会社をたたんでも保証債務は消えません。保証をどう扱うかで手元に残る金額は変わるので、経営者保証を外す手順を先に確認したうえで比較してください。

一方、第三者承継が成立すれば、これらの支出の多くは発生しません。雇用は買い手に引き継がれ、借入も引き継ぎの対象になります。経営者には退職金や株式の譲渡代金が残ります。ただし譲渡の側にも、依頼先へ払う費用が乗ります。譲渡額が小さいほど最低報酬の負担は重くなるため、費用の決まり方はM&A仲介会社とプラットフォームの比較で確かめられます。どちらが有利かは、この2つの収支を並べて初めて判断できます。

譲渡を検討するなら先に整えておくこと

買い手が最初に見るのは、会社の将来性ではなく「引き継げる状態になっているか」です。次の4つは、相手を探し始める前に自分で手をつけられます。

  1. 直近3期分の決算書と、現在の借入残高の一覧 — 買い手が最初に求める資料です。これが出てこない会社は、その時点で検討から外れます。
  2. 許可・免許の有効期限と、要件を満たす人の在籍状況 — 建設業許可も運送業の許可も、専任技術者や運行管理者がいなくなれば維持できません。誰の資格で許可が成り立っているかを書き出しておきます。
  3. 未払残業代と社会保険の加入状況の把握 — 買い手が最も警戒する簿外債務です。問題があるなら、隠すより先に金額を把握して自分から示すほうが交渉は進みます。デューデリジェンスで発覚したときに引かれる金額のほうが、自己申告より大きくなりがちです。
  4. 従業員の年齢・保有資格・担当業務の一覧 — 人を目的に買う相手にとっては、これがそのまま評価の材料になります。

次にやること

人手が理由の行き詰まりは、決算書に表れる前に現場で始まります。数字が悪くなってから動くと、条件を選ぶ余地は狭まります。

まずは前章の4つのうち、いま手元にそろっていないものを1つずつ用意してください。資料がそろえば、廃業したときの手残りと、譲渡したときの手残りを同じ土俵で比べられます。この2つの数字が並んだ時点で、判断の材料は出そろいます。

比べた結果として廃業を選ぶこともあります。避けたいのは、比べないまま決めてしまうことです。