M&A基礎知識

M&Aの手数料はどう決まる?レーマン方式と完全成功報酬の仕組み

M&Aの手数料は「料率が何%か」だけでは決まりません。費用が発生する5つの時点、レーマン方式で総額を左右する算定基礎と最低報酬額、完全成功報酬型が解決することとしないことを、契約前に確認する順番で整理します。

公開 更新 カテゴリ M&A基礎知識 読了目安 約8分

編集 M&A攻略ガイド編集部

M&Aの手数料はどう決まる?レーマン方式と完全成功報酬の仕組みについて、契約・財務・業務資料を確認する経営者と担当者
準備から契約までM&Aの手順を並べた編集イラスト

この記事の前提

想定読者
中小企業の経営者・後継者など、M&Aや事業承継を検討している方
読了後の状態
この記事のテーマについて、自社の状況に当てはめて判断できる状態

「M&Aを依頼したいけれど、手数料が高そうで怖い」「何千万円も請求されるのではないか」

M&Aの手数料体系は専門用語が多く、料金表を見せられても総額が想像できません。そして分かりにくいまま契約すると、「まだ会社が売れてもいないのに、着手金と中間金だけ取られた」という状態になります。

金額そのものは依頼先と契約内容で変わるため、この記事では扱いません。代わりに、何によって総額が変わるのかを整理します。費用が発生する5つの時点、業界標準の計算ルールであるレーマン方式で総額を左右する要素、そして完全成功報酬型が解決することとしないこと。この3つが分かれば、渡された料金表を自分で読めます。

明るい会議室でスーツ姿の2人が握手している様子

1. M&A仲介会社に支払う費用の内訳

M&A仲介会社へ支払う手数料は、次の5つの組み合わせで決まります。会社によって「ある費用」と「ない費用」があるため、まずどれが自分に発生するのかを確認します。

①相談料

M&Aが可能かどうかを相談するための費用です。

  • 発生する時点: 契約前の面談時。初回相談を無料としている会社が多く、有料の場合は時間単位で設定されます。
  • 確認すること: 何回目の面談から有償になるか。資料を見てもらう作業は無償の範囲に含まれるか。

②着手金(ちゃくしゅきん)

アドバイザリー契約を締結した時点で支払う費用です。

  • 発生する時点: 契約締結時。成約しなくても返金されないのが通常です。
  • 何で変わるか: 依頼先の規模と、案件の想定規模。無料としている会社もあります。
  • 確認すること: 契約が途中で終了した場合の扱い。成功報酬から差し引かれるかどうか。

③中間金(ちゅうかんきん)

買い手候補と基本合意に至った段階で支払う費用です。

  • 発生する時点: 基本合意の締結時など、途中の節目。
  • 何で変わるか: 定額で設定されている場合と、成功報酬の一定割合を前払いする形の場合があります。後者は成功報酬の水準に連動します。
  • 確認すること: ここで支払った後に破談になった場合、返還されるか。されないのが一般的です。

④月額報酬(リテイナーフィー)

コンサルティング料として毎月支払う費用です。

  • 発生する時点: 契約期間中、毎月。
  • 何で変わるか: 期間が延びるほど総額が増えます。買い手が見つからないまま契約期間が延びる可能性と合わせて見る必要があります。
  • 確認すること: 総額の上限が定められているか。中小規模の案件では設定しない会社もあります。

⑤成功報酬(せいこうほうしゅう)

M&Aが最終的に成約(クロージング)した時に支払う費用です。費用の大半をこれが占めます。

  • 発生する時点: 決済時。金額が大きい場合、分割で支払う設計もあります。
  • 何で変わるか: 後述するレーマン方式の料率と、その料率を掛ける対象(算定基礎)。加えて最低報酬額。
  • 確認すること: この3つすべて。1つでも欠けると総額は計算できません。

このほか、デューデリジェンスを依頼する専門家の費用、登記や契約書に関する実費、消費税が別立てで発生します。見積もりを受け取ったら、そこに含まれていない費用が何かを必ず聞いてください。


2. 費用の計算式「レーマン方式」とは?

成功報酬の計算には、【レーマン方式】と呼ばれるルールが使われます。仕組みは単純で、取引金額をいくつかの帯に区切り、帯ごとに違う料率を掛けて合算するという方法です。帯が上がるほど料率は下がります。

ここで多くの人が誤解するのが、「料率は〇%です」という説明だけで総額が決まると思ってしまう点です。段階的に計算する以上、料率という数字だけでは総額は出ません。同じ「レーマン方式」を名乗っていても、次の3つが違えば結果は変わります。

確認する項目 なぜ総額が変わるのか 面談での聞き方
算定基礎(何に料率を掛けるか) 譲渡価格を基礎にするか、引き継がれる借入金を含めた移動総資産を基礎にするかで、掛ける対象の大きさが変わります。借入の残っている会社ほど差が開きます 「報酬の算定基礎は何ですか。負債は含まれますか」
帯の区切りと、各帯の料率 区切る金額と料率の設定は依頼先ごとに違います。刻みが違えば、同じ譲渡価格でも合計は変わります 「料率表を書面でいただけますか」
最低報酬額(ミニマムフィー) 料率で計算した結果がこれを下回る場合、支払うのは最低報酬額のほうです 「最低報酬額はいくらですか。売り手・買い手それぞれにかかりますか」

このうち、中小企業のM&Aで最も影響が大きいのは1行目です。譲渡価格そのものは小さくても、金融機関からの借入が残っていれば、移動総資産を基礎にした計算では算定の対象が大きく膨らみます。「料率は業界標準です」という説明を受けたら、標準なのは料率の考え方であって、算定基礎まで同じとは限らないと考えてください。

譲渡価格の目安を自分で持っていないと、この計算の当てはめもできません。価格の出し方は企業価値の計算方法で整理しています。


3. 注意!「最低報酬額(ミニマムフィー)」の落とし穴

「うちは小さな会社だから、譲渡価格も小さい。だから手数料も少なくて済むはずだ」

ここに落とし穴があります。多くの仲介会社は【最低報酬額(ミニマムフィー)】を設定しており、料率で計算した金額がこれを下回った場合、最低報酬額のほうが請求されます。

効いてくるのは、譲渡価格が小さい案件です。譲渡価格に対する実質的な負担率は、価格が小さいほど跳ね上がります。極端な場合、手数料を支払うために会社を譲るような収支になることもあります。

最低報酬額の水準は、依頼先がどの規模の案件を主に扱っているかで変わります。1件あたりにかける工数が大きい体制ほど、その工数を回収できる水準に設定されるためです。この金額は交渉の余地が小さく、あらかじめ料金表で決まっているのが通常です。

小規模な譲渡(スモールM&A)を考えている場合、確認する順番は料率よりも先に最低報酬額です。料率がどれだけ低くても、料率計算の結果が最低報酬額を下回るなら、支払うのは最低報酬額のほうだからです。あわせて、次の2点も聞いておきます。

  • 最低報酬額は、売り手と買い手のそれぞれにかかるのか、案件全体で1つなのか。
  • 事業譲渡の場合と株式譲渡の場合で、算定基礎や最低報酬額が変わるのか。手法による違いは株式譲渡と事業譲渡の比較で扱っています。

4. 「完全成功報酬型」は何を解決し、何を解決しないか

着手金や中間金のリスクを避けるために増えているのが【完全成功報酬型】です。着手金・中間金・月額報酬をいずれも設定せず、成約した時にだけ成功報酬を支払う設計を指します。

解決することは明確です。成立しなかった場合の持ち出しがなくなります。買い手が見つかるかどうか読めない段階で契約する以上、この構造上の利点は小さくありません。

一方で、解決しないことが4つあります。

  1. 最低報酬額は別の話です。 完全成功報酬型でも、最低報酬額は設定されているのが通常です。前払いがないことと、成約時の支払いが小さいことは関係ありません。
  2. 成約時の水準が高めに設定される場合があります。 前払いを取らない分を成約時に回収する構造なので、料率や最低報酬額が、着手金のある会社より高いことがあります。総額で比べないと逆転します。
  3. 稼働の担保がありません。 着手金には、依頼先が工数をかける根拠という側面もあります。費用が発生していない案件は、依頼先の中で優先度が下がることがあります。契約後に何をいつまでに行うのかを、書面で確認してください。
  4. 契約条項のリスクは残ります。 専任の定めがあれば、契約期間中は他の経路を使えません。契約終了後の一定期間に成約した場合に報酬が発生する定め(テール条項)があることもあります。費用がかからないことと、身動きが取れることは別です。

つまり完全成功報酬型が向くのは、成立の見通しが立たない段階で持ち出しを避けたく、かつ譲渡価格が最低報酬額を十分に上回る見込みがあり、契約期間と専任の条件を確認したうえで受け入れられる場合です。譲渡価格が最低報酬額に近い規模であれば、費用体系の名前ではなく最低報酬額そのもので依頼先を比べることになります。

なお、手数料の説明を求める根拠としては、中小M&AガイドラインとM&A支援機関登録制度の枠組みが使えます。登録している事業者は手数料の算定方法を説明する姿勢を求められているため、「書面でください」という依頼は無理な要求ではありません。


5. 依頼先を比べるときは、料率ではなく総額で並べる

同じ会社を譲るとしても、依頼先によって手元に残る金額は変わります。差が生まれるのは料率そのものよりも、次の3つの組み合わせです。

  • 着手金・中間金の有無 — 成立しなかった場合に消える金額です。ここだけは、成約の可否と無関係に確定します。
  • 最低報酬額 — 譲渡価格が小さいほど、総額はここで決まります。
  • 算定基礎 — 借入が大きいほど、譲渡価格ベースとの差が開きます。

比較するときは、同じ前提を書いた紙を用意して、各社に同じ数字で見積もってもらいます。前提とは、想定する譲渡価格、借入金の残高、想定する譲渡の手法(株式譲渡か事業譲渡か)、そして想定するスケジュールです。前提が揃っていない見積もりを並べても、どちらが安いのかは判断できません。

依頼先ごとに費用の発生する時点がどう違うかは、買い手を探す5つの経路でも経路別に整理しています。仲介に依頼せず、相手探しを自分で行って交渉と契約だけ外部に頼む形については、仲介手数料と依頼先の選び方で扱っています。


次にやること

契約書に署名する前に、次の3つを済ませてください。

  1. 料金表と、算定基礎を書面でもらう。 口頭の「業界標準です」は、契約書の条項と一致しないことがあります。料率の刻み、算定基礎、最低報酬額の3点が書かれているかを目で追ってください。
  2. 同じ前提で、複数の依頼先に見積もりを出してもらう。 前提を揃えると、料率の差ではなく、算定基礎と最低報酬額の差が見えます。ここが総額を決めている部分です。
  3. 成立しなかった場合に確定する金額を、単独で計算する。 着手金、中間金、月額報酬、そして中途解約時の清算条項。この合計が、買い手が見つからなかったときに失う金額です。

この3つが揃っていれば、手数料の話は交渉になります。逆に、総額を計算しないまま契約すると、成約の連絡と一緒に請求書が届き、そこで初めて算定基礎に借入金が含まれていたことを知る、という順序になります。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」。第2版(2023年9月)で、仲介者・FAの手数料についてレーマン方式と最低手数料の考え方、算定基礎となる「基準となる価額」の捉え方によって報酬額が変わる点が記載された https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html