【徹底比較】株式譲渡と事業譲渡の違い|税金・手続き・従業員の扱いはどう変わる?

M&A基礎知識

【徹底比較】株式譲渡と事業譲渡の違い|税金・手続き・従業員の扱いはどう変わる?

「M&Aをするなら、どの方法が一番得なんだろう?」

中小企業のM&Aでは、主に「株式譲渡(かぶしきじょうと)」「事業譲渡(じぎょうじょうと)」という2つの手法が使われます。

どちらを選ぶかによって、「社長の手元に残るお金(税金)」「手続きの大変さ」が天と地ほど変わってきます。

この記事では、両者の違いを徹底比較し、あなたの会社にはどちらが向いているのかを判断する材料を提供します。


1. 2つの手法の決定的な違い

一言で言うと、「会社そのものを売る」か、「会社の中身(事業)だけを売る」かの違いです。

株式譲渡 = 「会社ごとオーナーチェンジ」

会社の所有権(株式)を買い手に渡す方法です。会社という「箱」ごと渡すため、中に入っている資産、負債、従業員、契約などは、原則としてそのまま引き継がれます。

  • 主な対象: 事業承継、ハッピーリタイアを目指す場合

事業譲渡 = 「特定の事業だけ切り売り」

会社の一部(例:飲食事業部だけ、工場だけ)を選んで売る方法です。売り手企業という「箱」は、売却後も手元に残ります。

  • 主な対象: 不採算事業の整理、事業の選択と集中を行いたい場合

2. 株式譲渡のメリット・デメリット

現在の中小企業M&Aにおいて、最も一般的(9割以上)なのがこの手法です。

メリット

  • 手続きがシンプル: 株主総会の承認と株式譲渡契約だけで完了します。
  • 税金が安い(重要): 売り手(個人株主)にかかる税金は、譲渡益に対して一律20.315%(所得税+住民税)です。
  • 独立性を維持しやすい: 許認可や取引契約もそのまま引き継げるため、事業が止まるリスクが低いです。

デメリット

  • 負債も引き継ぐ: 買い手からすると、帳簿に載っていない「簿外債務」まで引き継ぐリスクがあります(そのためデューデリジェンスが厳しくなります)。
  • 不要な資産もついてくる: 買い手がいらないと思っている資産(社長の社用車や保養所など)もセットで引き継ぐことになります。

3. 事業譲渡のメリット・デメリット

「うちは会社ごと売るのはちょっと…」という場合に選ばれる手法です。

メリット

  • 好きなものだけ売買できる: 「優良な店舗だけ欲しい」「借金は引き継ぎたくない」といった買い手の要望に応えやすいです。
  • 簿外債務のリスク遮断: 契約で指定した負債以外は引き継がないため、買い手にとって安心感があります。

デメリット

  • 手続きが超・煩雑: 従業員一人ひとりとの再雇用契約、取引先との契約巻き直し、許認可の取り直しなど、膨大な事務作業が発生します。
  • 税金が高い(重要): 利益に対して法人税(約30%〜)がかかります。さらに、売却資産に課税される消費税も買い手が負担する必要があります。

4. 最大の落とし穴!「税金」と「手取り」のシミュレーション

経営者にとって一番重要な「お金」の話をしましょう。 同じ「1億円」で売れたとしても、手元に残るお金はこれだけ違います。

ケース:売却益が1億円の場合

項目株式譲渡の場合事業譲渡の場合
売却益1億円1億円
課税対象株主(個人)売却した会社(法人)
税率約20%(申告分離課税)約30%〜34%(法人実効税率)
税金約2,000万円約3,400万円
手残り約8,000万円(個人の口座へ)約6,600万円(会社の口座へ)

※事業譲渡の場合、お金は「会社」に入ります。そこから社長個人にお金を移すには、さらに役員退職金や配当として出す必要があり、そこでも税金がかかります(二重課税の問題)。

つまり、「会社を畳んで引退するなら、株式譲渡のほうが圧倒的に得」なケースが多いのです。


5. 比較まとめ:どっちを選ぶべき?

比較項目株式譲渡事業譲渡
売るもの会社そのもの(株式)事業(資産・権利・義務)
お金の受取人株主(社長個人など)会社(法人)
手続き簡便(株式の書き換え)煩雑(個別に契約移行)
従業員の雇用そのまま継続一旦退職して再雇用
許認可原則引き継げる原則取り直し
税金約20%(所得税等)約30%〜(法人税)+消費税
おすすめな人後継者不在で会社を譲りたい
引退して現金を得たい
特定の事業だけ切り離したい
会社自体は存続させたい

まとめ

M&Aの手法選びは、手元に残るキャッシュや、その後の従業員の処遇に大きく影響します。

  • 基本は「株式譲渡」:税金面で有利かつ手続きがスムーズ。
  • 状況により「事業譲渡」:一部だけ売りたい、簿外債務のリスクを切り離したい場合。

「自分の会社の場合、どちらのスキームが最適なのか?」 「税金をシミュレーションしてほしい」

そう思ったら、まずはM&Aの専門家や税理士に相談してみましょう。初期段階でスキームを間違えると、数千万円単位で損をする可能性があります。

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